毎日の生活の中で、「適切な睡眠」は心身の健康の保持・増進に欠かせません。
布団に入っても眠れない、眠っても休養がとれた感じがしない、日中に眠くなる、居眠りしてしまう……。日々、こうした症状はありませんか?
睡眠に関連する様々な症状は、睡眠障害によって生じている可能性があります。睡眠障害について理解を深めて、心当たりがあるようなら症状を放置せず、速やかに医療機関を受診しましょう。
監修:鈴木 正泰(日本大学医学部 精神医学系精神医学分野 教授)
「眠れない」「休養がとれた感覚がない」「日中に眠くなる」などといった睡眠に関連する様々な症状は、「睡眠環境、生活習慣、嗜好品のとり方」によって生じている場合と、「睡眠障害」によって生じている場合があります。
睡眠に関連する様々な症状には、以下のようなものがあります。
・十分な睡眠の機会を確保しているにもかかわらず、睡眠時間が以前より著しく短くなり、標準的な睡眠時間(※)と比べても短い。
※健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)において、適正な睡眠時間には個人差があるが、成人においては6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。
・睡眠で休養をとれている感覚が乏しい。
・日中の眠気が持続する。
・強い眠気や居眠りが生じる。
寝室の照明や寝具を変えたり、1日3食なるべく決まった時間に食べて生活リズムを整えたり、夕方以降のカフェイン摂取を控えたりして「睡眠環境、生活習慣、嗜好品のとり方」を見直してもなお、睡眠に関連する様々な症状が改善しない場合は、睡眠障害が原因となっている可能性があります。
睡眠に関連する様々な症状がある場合は、まずは「睡眠環境、生活習慣、嗜好品のとり方」を見直すことが大切です。
これらの改善のコツは、「眠り方改革してみませんか?」をご覧ください。
「睡眠障害」とは、睡眠に関する様々な病気の総称です。
代表的な睡眠障害としては、不眠症、閉塞性睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群と周期性四肢運動障害、過眠症(ナルコレプシー、特発性過眠症)などがあります。
これらの特徴等をみていきましょう。
不眠症は、眠る機会や環境が適切であるにもかかわらず、なかなか寝つけない(入眠障害)、夜間に途中で何度も起きる(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまい、それ以降眠れなくなる(早朝覚醒)などの症状が出現し、それによって日常生活に何らかの支障(倦怠感や集中力の低下、日中の眠気、仕事の効率や学業成績の低下、眠ることへの強い不安など)を来たす疾患です。
原因は、ストレス、生活リズムの乱れや睡眠環境、刺激物や薬、心身の病気、加齢など様々で、原因に応じた対処が必要です。
不眠が続くと、次第に眠れないことに対する不安や緊張、眠ることへの苦手意識、睡眠に対するこだわりが強くなっていきます。不眠症の人は、寝床で眠れず悶々と過ごす時間が増え、その結果、さらに不眠症状やそれによる苦痛が悪化するという悪循環に陥ります。
良い睡眠をとるための生活習慣の見直し(睡眠衛生指導)を行うとともに、必要に応じて薬物療法(睡眠薬の投与)を行います。
不眠症は、うつ病や不安症をはじめとした様々な精神疾患の初期症状、もしくは併存症として現れることが多くあります。精神疾患が併存する場合には、不眠症の治療のみでは十分に改善しない場合も多く、精神疾患の悪化を防ぐためにも、医師の助言を求めることをお勧めします。
睡眠時無呼吸は、睡眠中の呼吸停止を特徴とする睡眠障害です。睡眠時無呼吸は、大きく閉塞性と中枢性に分かれますが、大部分を占めるのは閉塞性睡眠時無呼吸です。
閉塞性睡眠時無呼吸では、睡眠中に何かしらの理由で気道が狭まることによって、大きないびきとともに、一時的な呼吸停止が繰り返し出現します。それによって血液中の酸素が不足すると覚醒反応が生じて呼吸は再開しますが、再び眠りにつくと、また呼吸が停止します。これらを夜間に繰り返す結果、睡眠が分断され、日中の眠気や居眠り、睡眠休養感の低下、倦怠感などが現れます。
加齢による上気道の筋力低下に加えて、肥満が最大の発症危険因子となるため、肥満の予防・改善を心がけることが大事です。肥満でなくても下顎が小さい、下顎が後退している、首が短いなどの身体的な特徴が原因となることもあります。
また、高血圧や脳卒中、心筋梗塞、心不全などの循環器疾患や、糖尿病などの代謝性疾患の誘因にもなります。これらの疾患を有すると、閉塞性睡眠時無呼吸の頻度は高まり、加えて肥満であると頻度は一段と高まります。
減量、口腔内装置、持続陽圧呼吸療法、外科的治療などがあります。口腔内装置は、マウスピース様の歯科装具を用いて舌の沈下による気道閉塞を防止するもので比較的軽度の場合に使用されます。持続陽圧呼吸療法は、鼻部にマスクを装着して空気を送り込み、上気道内を陽圧に保つことで上気道の閉塞を防止する方法です。
日中の眠気が強い場合や、睡眠休養感が低い場合は、積極的に専門医療機関で検査を受けることをお勧めします。
むずむず脚症候群では、安静時に四肢(主に下肢)に「むずむず」「ざわざわ」「虫が這う感じ」などの不快な感覚が生じ、四肢を動かさずにいられない衝動に駆られます。夕方から夜間にかけて症状が強くなるのが特徴です。四肢を動かしたり、不快な感覚がある部位に刺激を与えることで症状は軽減しますが、動くのをやめたり、刺激することをやめると再び症状が出現します。このため、眠気はあるにもかかわらず、うまく寝つけず、入眠障害を来たします。
周期性四肢運動障害は、睡眠中に、四肢(主に下肢)の筋肉がぴくぴくと痙攣することによって睡眠が分断される睡眠障害です。むずむず脚症候群と合併が多いことが知られています。
夜間に十分な時間眠っているのに、昼間の眠気が強く、仕事や学習などの日常生活に支障をきたす場合には、過眠症が疑われます。
ナルコレプシーは、10歳代に好発する過眠症であり、急に睡魔におそわれて眠ってしまう睡眠発作を認めます。居眠りからは5~10分程度で自然に覚めることが多く、一時的にはリフレッシュしますが、数時間すると再度耐え難い眠気におそわれます。ナルコレプシーでは、眠りぎわの睡眠麻痺(金縛り)や入眠時幻覚もしばしば出現します。また、笑ったり、驚いたりすると突然身体の力が抜ける情動脱力発作を認める場合もあります。
特発性過眠症も日中の眠気を主症状とする過眠症ですが、ナルコレプシーと異なり、居眠り後のリフレッシュ感は乏しく、日中の眠気や居眠りが長時間続く傾向があります。
「睡眠環境、生活習慣、嗜好品のとり方」を改善しても、以下のような症状が複数あり持続する場合は、睡眠障害の可能性があります。
睡眠障害に関するチェックリスト
睡眠障害は自力での解決が難しい場合が多く、生活習慣病のリスクを高めることがわかっています。睡眠障害が疑われる場合や、日常生活に支障が出ている場合は、速やかに医師に相談しましょう。
このページの担当は 保健政策部 健康推進課 健康推進担当 です。