アトピー性皮膚炎
最終更新日:令和6年3月21日 | 公開日:平成29年4月21日
アトピー性皮膚炎とは
顔や身体にかゆみを伴う湿疹が現れて、良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す病気です。
皮膚の乾燥とバリア機能の低下により、皮膚の表面に隙間が出来て、そこからさまざまな細菌や刺激物質、アレルゲンなどが入りやすくなり、炎症を起こすと考えられています。
(出典:独立行政法人環境再生保全機構『すこやかライフNo.43』より)
アトピー性皮膚炎の特徴・症状
- 皮膚が全体的に乾燥している(乾燥肌)
- 湿疹は左右対称に現れることが多い
- 湿疹が出やすい場所は、年齢によって異なった特徴がある
- 乳児期:頭、頬、口のまわり、首、耳の付け根が多く、悪化してくると身体や手足に広がる
- 幼児・学童期:首、ひじの内側と外側、ひざとその裏側など、関節の部分
- 思春期・成人期:上半身(顔、首、胸、背中)
- かゆみのある湿疹が長期間続く(乳児では2か月以上、それ以上では6か月以上)
症状は、皮膚が乾燥してカサカサしている状態から、湿疹のあった皮膚が硬くゴワゴワになったり、赤く腫れてジクジクしたり、さまざまな段階があります。
治療
アトピー性皮膚炎を改善させるには、「炎症をとること」と「皮膚のバリア機能を回復させること」が必要です。治療には、科学的な根拠に基づく有効性が明らかな標準治療(治療の3本柱)があります。
治療の3本柱
- 皮膚を清潔にして乾燥を防ぐ(保湿)『スキンケア』
- 皮膚の炎症を抑えるための外用薬による『薬物療法』
- 症状を悪化させる汗やダニなどの『悪化要因の対策』
薬物療法(外用薬)について
アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症を抑える薬物療法は、ステロイド外用薬や非ステロイド外用薬であるタクロリムス外用薬、コレクチム®軟膏、モイゼルト®軟膏による外用療法(塗り薬)が中心となります。ステロイド外用薬は、効き目の強さによって5段階に分けられ、症状の程度(重症度)や塗る場所に合わせて使い分けます。
これらの塗り薬に対して、「体に悪そう」、「副作用が怖い」と不安や先入観から使用をためらう患者さんや、「薬を塗ってもなかなか良くならない」、「かえって悪化した」という辛い経験をしたために、薬や医師に不信感を抱き、自己判断で薬や治療を止めてしまう患者さんがいます。
しかし、良くならない原因は薬が効かないからではなく、症状に見合った強さの塗り薬が選択されていなかったり、必要な量を使っていなかったり、薬の塗り方が適切ではなかったりなど、薬の使い方に問題があることがほとんどです。皮膚の炎症を完全にコントロールできるだけの十分な治療が出来ていないのです。
症状を悪化させる原因(要因)は、年齢や体質などによっても異なります。自分がどのような時に悪化しやすいのか知っておくことも、症状の悪化を防ぐためには必要です。
皮膚の炎症の状態に合わせた塗り薬のランク(効き目の強さ)の選択や適切な使い方(何を、どこに、どの程度の量を、いつ、どのくらいの回数で、どのように塗るのか)などについて医師に相談しながら確認し、根気よく前向きに治療に取り組むことが回復への道につながります。
また、外用薬療法に対する補助療法として抗ヒスタミン薬の内服や心身にも留意した包括的な治療が効果的な場合もあります。
ステロイド外用薬のランク
(出典 独立行政法人環境再生保全機構「ぜん息悪化の予防のための小児アトピー性皮膚炎ハンドブック」より)
ステロイド外用薬のランクと使用部位(例)
ランク(強さ) | 使用部位(例) |
---|---|
Ⅲ群 strong 、Ⅳ群 mild | 体幹、四肢 |
Ⅳ群 mild | 顔面、陰部 |
※ただし、年齢や病状の重症度、部位、範囲等に応じてランク(強さ)が異なる場合があります。
市販のステロイド外用薬について
近年、自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする「セルフメディケーション」が推奨され、市販薬として入手できる薬の種類も増えてきました。最近はドラッグストア等の市販薬を使ってセルフメディケーションをしている方もいるかと思います。
薬局やドラッグストアで市販薬として購入できるステロイド外用薬は、ランク(強さ)がⅤ群(weak)、Ⅳ群(mild)、Ⅲ群(strong)に属するものに限られています。ステロイド薬だけではなく、かゆみ止めや抗生物質が一緒に含まれるものなど種類も複数あります。たとえ同じ症状であっても程度(重症度)や年齢、部位など、人によって適しているランクや種類は異なります。市販のステロイド外用薬を購入する際は、自分の状態に合ったものを薬剤師や医師に相談して選択し、用法・用量など使用上の注意を守って使用するようにしましょう。また、概ね5~6日程度使用しても症状が変わらない又は悪化している場合は、セルフメディケーションの範囲を超えているので、早めに医療機関を受診して適切な治療(処方)を受けるようにしてください。
プロアクティブ療法について
アトピー性皮膚炎の治療ではなるべく早く痒みや皮疹のない状態にして(寛解導入)、その状態を長く続けていくこと(寛解維持)が大切になります。しかし、薬物療法を中止するとすぐに皮疹が再燃してしまうことも少なくありません(図1a)。これは一見正常にみえるようになった皮膚にもまだ隠れた炎症が残っているためです。
プロアクティブ療法(図1b)は再燃を繰り返す皮疹に対して皮疹が消えた後も保湿外用薬によるスキンケアに加えて薬物療法を間歇的(週2回程度)に継続することで皮疹の再燃を防ぐ維持療法です。皮疹が再燃したら薬物療法を再開する従来のリアクティブ療法(図1a)よりプロアクティブ療法の方が維持療法に適していることが確認されています。
しかし、プロアクティブ療法の開始や終了のタイミング、使う外用薬の種類や外用範囲は患者さんごとに異なりますのでかかりつけの先生に確認しましょう。
(出典:日本皮膚科学会ガイドライン,日本アレルギー学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021より)
全身療法について
前述の治療法をしっかりと実践しても十分に痒みや皮疹の改善が得られない重症・難治な患者さんに対しては全身療法もあります。全身療法としては紫外線治療、免疫抑制剤(ステロイド内服薬、シクロスポリン)、抗体製剤(デュピクセント®、アドトラーザⓇ、イブグリースⓇ、ミチーガⓇ)、ヤヌスキナーゼ阻害剤(オルミエントⓇ、リンヴォックⓇ、サイバインコⓇ)による治療法があります。2018年に承認されたデュピクセントⓇはアトピー性皮膚炎を悪化させる細胞が出すサイトカインを注射で抑える抗体製剤です。2020年~2021年に承認されたオルミエントⓇ、リンヴォックⓇ、サイバインコⓇは細胞内のシグナル伝達を抑える内服薬です。新しい薬は、これまでの治療では十分に改善せずに困っていた患者さんにも有効であり、治療の選択肢が増えました。ただし、それぞれの薬の特徴や副作用について専門の先生から十分な説明を受けて使用する必要があります。
アトピー性皮膚炎 治療薬の例 (2024年3月現在)
関連情報
九州大学医学部皮膚科学教室 「アトピー性皮膚炎に関する情報」
病気の特徴や標準治療、ステロイド外用薬の不安を持つ人へのメッセージ、入浴と保湿のスキンケア、悪化要因やかゆみに対する具体的な対処法、診察を受ける時のポイント等がまとめられています。
公益社団法人日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021年版」
公益社団法人日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が作成したアトピー性皮膚炎治療ガイドライン。
EBM*の観点から、現時点における日本国内のアトピー性皮膚炎の治療方針における目安や治療の目標など診療の道しるべを示すものとして定期的に改訂されています。
*EBM(evidence based medicine)科学的な根拠に基づく医療のこと
このページは東京都 健康安全研究センター 企画調整部 健康危機管理情報課 環境情報担当が管理しています。